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INTERVIEW

日常にヨットがある生活。 「手間返し」のできる仕事とコミュニティ。

平田 欽也さん

東京都 → 広島県
1997年
1962年生まれ 一級建築士事務所有限会社アトリエ平田 代表取締役 広島工業大学非常勤講師 設計事務所経営 家族4人(妻・子供2人) 

大学卒業後,東京の設計事務所で働き,30代半ばを迎えた時,子どものころからの趣味であるヨットともっと身近に関われる生活を求めてUターン。設計事務所経営の傍ら大学講師も勤め「人とのネットワーク」を大切にしながら,仕事と趣味を両立させるライフスタイルを実現している。

どのような経緯でUターンされたのですか?

広島の大学を卒業して東京の設計事務所で働き始めました。著名な建築家の事務所だったので,八景島のマリーナや,大規模ホテルや博術館など,華やかで素晴らしい仕事に携わらせていただき,仕事の面白さにハマっていました。
一方,小学生の頃,五日市港の近くに住んでいたのですが,家のすぐ近くにヨットを持った人が住みだしたのがきっかけでヨットをするようになり,東京に行っても,葉山や三浦半島に通って趣味のヨットを続けていました。

でも,自宅から海まで電車で2時間以上かかります。遊び終わって濡れたまま電車に乗って帰るなんてできませんから,いつも大きなバックをかかえて移動するのに苦労しました。電車が混雑する時間を避けるため,ヨットで仮眠をとって終電や始発で帰るなんてことも多かったです。これでは頻繁にヨットに乗りたいと思わなくなります。また,関東のヨットの世界では活動の中心がヨットレースなので,休日にも関わらず時間との戦いになります。しだいにレースではなくクルージングで瀬戸内海の島をのんびりとめぐりたいという気持ちが強くなってきました。生涯の趣味であるヨットと仕事を両立させたいと思って,広島に戻りました。

広島では,どのように仕事とヨットを両立させておられますか?

自宅から設計事務所までの行き帰りにちょっと寄れる場所にマリーナがあります。ふらっとヨットの様子を見に行きますし,マリーナに行くと誰かいるので,自然と社交場にもなっていて,次のクルージングの計画や行事の打ち合わせなどをしています。マリーナとの距離が近いと気分的にも大きく違います。台風が来た時などは,対応に駆けつけなければならないので,近いと安心感があるんです。
ヨットで海に出るペースは平均すると月1回。瀬戸内海は波が穏やかで,日帰りで楽しめるクルージングスポットがいくつもあります。2?3日の休みがあれば,少し足を伸ばして瀬戸の島々をめぐり,情緒ある風景や人々と出会えます。週末のクルージング派には最高の海です。1週間くらいのまとまった休みが取れるときは,メンバーとスケジュールを合わせて外洋にも出掛けます。奄美大島や隠岐の島まで行ったこともありますよ。

また,私が理事として携わる「(NPO平成25年度まで→現在は任意団体)佐伯帆走協会」は,昭和54年からの歴史があり,子どものころヨットを教わった先輩達から受け継いで,現在は高校時代の仲間が中心メンバーとして活動しています。地域行事と連携して開催するヨットの乗船体験や募集型の海辺の生物観察体験など,海を身近に感じてもらうためのさまざまな機会を提供しています。
メンバーの高齢化など課題もありますが,ベースには自分たちが遊ぶ楽しみがあり,そこからコミュニティ活動に派生しています。
広島ベトナム協会とのコラボ企画では,母国では治安の問題で海遊びができないベトナム人留学生にマリンスポーツを体験してもらいました。スポーツを通して幅広い交流が出来るのがうれしいですね。
転勤族の方などで,ヨットに興味をもち広島に居る2?3年の間だけ運営メンバーに入ってくれるケースもあります。誰でもウエルカムです。県外から来ると広島にいて海に行かないのはもったいないと感じるみたいです。

仕事については,東京と広島で変化はありましたか?

東京では自分の強みを武器にクリエイティブな仕事が出来ます。専門分野に特化した人間を束ねてチームを作り,設計事務所全体として大きな仕事を受ける仕組みが整っているからです。しかし広島に戻ってきた私に,父は,「おい,木造住宅で雨漏りするから直してくれって」って言うんですよ。でもどこをどうやって直すかなんてその時は分かりませんでした。広島では,「マルチ」でないと生き残れないということを実感しています。また,広島では,お兄ちゃんの家を設計したら,嫁ぎ先の妹さんを紹介されて仕事がつながったり,孫が全員集まった写真をおじいちゃんが送ってくれたり,子どもが生まれたと手紙も来る。感謝もされるし濃い付き合いができる。やっていてお金ではない喜びがあります。
講師をしている大学では,社会は各々得意なことをやって支え合うことで成り立っていると,よく学生に話します。私は,建築の設計が得意だからそれをやっている。東京だとそういう自分の立ち位置が見えづらいのですが,広島では意識しやすいため,一層やりがいを感じます。

ヨットとの関わりが仕事に与えた影響はありますか?

東京では,自分の船を所有することはよほどのお金持ちでないと困難です。また,東京ではお金持ちが1人で出資して船を所有しているケースが多く,クルー(乗組員)はオーナーの下働きをするかわりにヨットにかかるお金を払わずにメンバーでいました。でも広島では,共同出資して船を共有しているパターンが多く,並列な関係なのでそのようなことがありません。対等な海の仲間としての関係になれます。
また仕事以外で,世代を超えた付き合いというのは普通なかなかできませんが,(NPO)佐伯帆走協会のメンバーとは,みんな近いところに住んでいることもあり,ヨットを通じて世代を超えた家族ぐるみの付き合いが続いています。

ヨットは,子どもたちの成長にも大きく関わっています。海は楽しいだけじゃなく自然の厳しさも教えてくれますし、狭い船の中で皆が力を合わせなくちゃいけない。親以外の大人と生活する機会なんて今時ないですよね。そんな経験から,現在息子は瀬戸内海の島にある商船学校に進学して、将来は船乗りを目指しています。

東京から戻ってきたときは,仕事のツテがありませんでしたが,ヨットの繋がりで付き合いの幅が広がって,活動で知り合った仲間のビルの設計をしたりだとか,仕事につながっていった部分もあります。

移住を検討中の方へメッセージをお願いします。

大それたことはいえませんが,「手間返し」という言葉を私は軸にしています。顔が見えるのは地方都市のいいところであり,お世話になった人や今お世話になってる人に,仕事で返すことが出来ます。
以前,ヨット仲間の奥様が倒れたためご自宅にバリアフリー改修が必要になったことがありました。改修のお手伝いさせてもらい,報酬ではなくこれまでの恩返しのつもりで行いました。Iターンで縁のない地域に飛び込んだとしても,あなたの持っている能力・技術がその地域で重宝されることで,十分コミュニティを構成でき,地域の拡がりにつながると思います。

平田さんの一日の時間の使い方

7:00 起床
8:00 自宅から職場へ向けて車で出発(2.5km)
途中マリーナに立ち寄り,ヨットの係留ロープを荒天に備えチェック
8:30 アトリエ着
始業までメールや書類のチェック
9:00 スタッフとミーティング
9:30 デスクワーク
設計作業や,工事打合せなど来客対応
12:00 アトリエから大学に向けて歩いて出発
12:05 大学のレストランで昼食
先生方と授業の打合せを兼ねたパワーランチ
13:15 大学の授業開始
建築デザイン実習
16:30 大学の授業終了 歩いてアトリエへ戻る
17:00 アトリエから自宅へ向けて出発
車を置きに戻る
18:30 五日市駅から電車で広島市中心部へ向けて出発
19:00 広島市中心部到着 NPOの会議に出席
NPO住環境研究会ひろしま,高齢者住宅に関するシンポジウムを企画
20:30 NPOメンバーとの懇親会(飲み会)に参加
22:30 帰宅
23:30 就寝
平田 欽也さん

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