HIROBIRO.ひろしま移住ストーリー2021 〜先輩移住者からのメッセージ募集〜 HIROBIRO.ひろしま移住ストーリー2021 〜先輩移住者からのメッセージ募集〜

広島移住までの道のり

しばさん
東京都から移住
40代前半
経営者・役員

はじめに

私が広島移住したのはほんの数日前のこと。そんな自分が移住体験などと銘打って記事を書いて良いものか思案したが、検討期間は実に10年に渡るものであったのでその振り返りとして書いてみたい。

数日ではあるが、とにかく今は移住して”本当に良かった”と思っている。

検討のきっかけ

広島を知るきっかけは知人を訪ねた旅行だった。それまでは歴史の教科書で見るイメージや、母方の叔父が広島大で教鞭をとっていたということでうっすら他県よりは気持ちの距離感が近い程度の捉え方だった。あとはお好み焼き。これについては後述するが、子供の頃からお好み焼きが嫌いで、たとえ名物であっても自分には関係のないものと思っていた(後々、苦手なのは関西風のお好み焼きだったことが判明する)。

そんな広島に訪問したのは今から10年ほど前だ。機会があって幾度となく足を運んだのだが、イメージとは裏腹に妙に親近感の湧く街、というのがその頃の印象だった。人がとにかくおせっかいで優しいとか、海と山の幸に囲まれて食材が豊富だとか、悪いイメージしかなかった”お好み焼き”がとにかく美味しかったとか(ビールに合うというのも大きい)、そういう接するものへの感動ももちろんありながら、何よりゆったりした空気感が自分には合っていた。町並みも、人の往来も、空気や空の様子、遠くの景色、すべてがゆったりとしていた。

元来、仕事もプライベートも攻めの姿勢で振り返ることが少ない性格で、気が付かないうちにギスギスした生活や余白のない日々を過ごしていたのかもしれず、ふと立ち止まって違う世界を覗いた気分だった。大げさにいうと、自分が生きている世界はずいぶん狭いものだ、くらいに感じたものだった。

移住を考えたのはその頃からだった。

移住を阻むもの

なんでもそうだが、人は常に断る理由を探してしまう。根底に変化を嫌う性質があるからなのだろうか。自分も移住を考え始めたものの、仕事はどうする、家族はどうする、家を買っているし・・・等々、いくらでも先延ばしにする理由はあった。結局、自分自身で拒んでいたのだろうと思う。それに、それらを理由に出来てしまうくらい、移住の動機が弱かったのかもしれない。

今移住して思うこととして、たった数日でも”本当に良かった”と思えるのは、自分らしさを取り戻すことの大事さだ。当時移住しなかった自分は断る理由を他者に求めていた。自分がどうしたいかではなく、自分がどういう立場に置かれているのかを客観視した結果として、実行しなかったのだ。自分の感情は二の次だった。

当時は自分の父親も移住を検討したものだったが、結果的に具体化することはなかった。

移住を検討するにいたった変化

あれから10年が経ち、家族構成も仕事の様子も変わり、様々な経験もあって、多少は人としての奥行きも出てきたのではないかと思うのだが、それが故に思い切りの良さと諦めの良さも得られた気がしている。以前は断る理由になったものがそうではなくなり、なにかの役割を完璧に全うしようとすることを、いい意味で諦められるようになった。

それに何より1歳9ヶ月の子供の育児環境を良くしたい思いにも駆られていた。

東京での暮らしは、控えめに言ってもそこそこ贅沢だったと思う。都心部で職場もすぐそば、飲食店もたくさんあり交通の便は良く、知り合いも多かった。日々どこかで仲間と飲んで、仕事を労い、次の野望を語り合い、時には馬鹿話で盛り上がったり。

だが、子供が自由に遊べる自然環境はとても限られ、特定の場所に行かないと触れ合えなかった。果たしてこれでいいのだろうか、そんな風に感じていた。自分自身も無駄のない生活を追い求め、ちょっとした手間や非効率を嫌い、はたからみたら冷たい大人になっていた気もする。どこかでこんな自分、生活をリセットしたい、という想いがあった。自分の時間も含めて消費するばかりだった。

そんなタイミングで、広島県に絡んだ仕事が始まった。1年前の話だ。

移住の先輩方のお話

仕事に絡んで、広島県の方とお話をする機会が増えた。中にはUターンの人も、Iターンの人もいる。そんな方々と話をすると、スタイルやアプローチは個々で違うものの、共通することとして”心の充足感”があることだった。もちろん、東京での生活に心がすさんでいたわけではないが、”どうあるべきか”という考え方が、”どうしたいか”を上回っていて本当の自分の意思を捉え違えることも頻繁だった。一方で広島に移住した人たちの中にはそういうグレーな部分が見えず(そう見えた)、自分に正直でマイペースに感じられたのだった。こういう大人に囲まれて育った子供は伸び伸びと育ちそうだな、そんな風に感じていた。

いよいよ本当に移住を考えても良いのかな、と思ったのはそんなタイミングだった。

いざ、移住へ

また、移住の決定打になったのが”コロナ禍”だった。こんなに一足飛びで対面の仕事がなくなるとは想像もつかなかった。いろんな不便も不安も生んだコロナではあるが、IT化の時計の針を進めてくれたことは間違いなかった。自分の仕事は蓋を開けてみればパソコンとネット環境さえあればどこでも出来るものだったので、リモートワーク全盛ともなると場所を問わない仕事を実現できた。転職を伴わない移住ができたことは、最後に背中を押してくれた。

移住の今とこれから

実は今の移住先には一度も足を運んだことがなかった。緊急事態宣言で訪問できなかったから、だ。ずっと待機していたのだが、いよいよ先が見えない中で我慢の限界にも達し、スマホの地図アプリでこれまでの広島の印象と重ねながら吟味し、引越し先の内覧もテレビ電話で行った。こんな経験なかなか無いよな、と半ば自分で呆れながらも物件を決めたのだった。

いざ引っ越し当日。現地に降り立ってみた時に、ネットで見ていた以上に自然の密接した環境に心底驚いた。そしてあまりに嬉しくて駅を出るなり家族で何枚も写真を撮った。この感動は家に到着してからも同様で、東京の狭苦しい生活が嘘のような開放感と、”ゆったりした空気”が出迎えてくれたのだった。

ここから数日間、荷解きをしながらリモートワークもなんの不便もなくこなし、時に海を眺めたり山並みを見たり、子供が広い部屋をあちこち走り回る様子を見守ったりしているが、ほんとうに穏やかで、なんでもっと早く来なかったんだろうと感じるほどだ。

移住して間もないこともあり、地域との関わりはこれからだし、今後生活の変化に伴う不便さなども感じることとは思う。だが、何より”自分がどうありたいか”を大事にできないことには気持ちの余白は生まれないし、前には進めない。先輩移住者に感じた”心の充足感”が今まさに自分自身にも満ちていくのを感じながら、これからの移住生活を楽しみたいと思う。

受賞作品