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INTERVIEW

500年の古刹の跡取りが,関東でのイベント・プロモーションの経験を活かして,地域に新しい活力を吹き込んでいく。

梵 大英さん

神奈川県 → 広島県
1977年生まれ 専法寺副住職 / 商工会議所青年部 / 三次唐麺焼プロジェクト / 三次さくら祭実行委員長 / 三次藩浅野保存会副会長 家族6人(祖母・父・母・妻・娘)

浅野内匠頭夫人阿久里姫の実家・三次城。そのお膝元の専法寺。お寺の長男に生まれながら,海への憧れからサーフィンが趣味となり,大都会への憧れもあって関東に出ていったがUターン。歴史の流れの中で今をみつめ,関東での経験を活かしながら,同世代の若者をつないで,地域に根差した新しい価値を生み出している。

海,それもサーフィンが趣味だとか?

山に囲まれている三次で生まれ育ったためか海への憧れが強く,21歳でサーフィンを始めました。ロングボードでゆったり海につかるスタイルです。国営備北丘陵公園(広島県庄原市)のキャンプ場のオーブニングスタッフとして働いていたこともあるのですが,休日には,必ず海に遊びに行っていました。島根県の浜田や大田の日本海にも1時間半あれば行けるんですよ。
25歳になって鎌倉市へ行きました。ライフガードのマネジメント会社に勤めていた頃は,朝起きて,4時間くらい海に入り,8時ごろ上がって仕事をし,夕方にまた海へ行く生活。

その後,音楽,イベント,コンサートやタレントプロモーションの仕事に変わり,仕事で海とのかかわりは少なくなりましたが,1週間に1度でも海に入ると精神的に安定しますね。三次に帰ってからも,タイミングを見ては海に入っています。
サーフィンをするときはどうしても日本海になってしまうんですが,母の実家が広島県福山市にあり,小さいころから瀬戸内海でカニを捕って遊んでいたので,瀬戸内海も大好きです。島と島の間に沈む瀬戸内海の夕日は“世界遺産”だと思っています。

Uターンと聞きましたが,関東に出る時と,ふるさとに帰る時はどんな思いだったのですか?

関東に出た理由は,大都会への憧れと,ふるさとの物足りなさの両方です。ふるさとを出る時は,それが当たり前で,なんとも思っていませんでした。でも出てしまうと田舎がよくなるんですね。ないものねだりです(笑)。区切りの大イベントをやり遂げることができたことや,「もしプロに入ったら兄ちゃん頼むね」と言ってた弟が本当にプロ野球の選手になったことなどがあって,お寺を継ぐ決心をしました。
ふるさとに帰る時は,僕の場合は,実家のお寺を継ぐということで帰る家はありましたが,これからどのような生活が待っているのか不安だらけでした。帰ってきて改めて地域を見てみると,そんなに時間がたっていないのに,昔あったものがない,いた人がいないことに大きな危機感を感じました。

かつて三次市は,島根県や広島県の北部の各地から買物客が来るような,中国地方北部の中心的な町で,人やモノが頻繁に動いている印象がありましたが,昔からあった店に人がいない,同級生もほとんどいない,子ども会もなくなっていました。 人口流出は様々なメディアで目にしていましたが,出ていった当時微塵にも思わなかった事態が,今この地域に生まれ始めている。地域をどういう風にしていくか,大人たちやじいちゃんたちが真剣に悩んでいました。実態を知り改めて,ここで求められているものをひしひしと感じるようになりました。 じゃ,僕としてお寺として何が出来るか,何が必要になるか。と考えていたわけです。結果,ここにどんと座って,お寺に来なさいというより,僕から町に出て行って地域の人と触れ合い話しながら何かを生み出していく方が,僕にはあっていると思いました。

どのような活動をはじめられたのですか?

お寺の副住職として,お祭りや地域の行事などに積極的に携わらせていただいています。
それから,同世代(20代後半から40代半ば)の企業経営者たちや友人など,有志が集まって,30年続く「三次さくら祭り」や「義士祭」(ぎしさい)の運営,チャレンジショップの支援などの取組を始めました。関東でプロモーションの仕事に就いていた経験が生きていると感じています。
若い世代の中には,情熱をぶつける先がなく,くすぶってる連中も多かったんですよ。朝仕事行って,帰ってきて寝て,たまにパチンコ行って…。

そういう人たちに新しいことを体験してもらうと,すごく目が輝くんです。目が輝いた時にぐっとひっぱって上げると一生懸命になってくれて利害関係なく一体感が生まれる。これは関東では味わえなかった感覚でした。
はじめは,ひとつひとつの行事やイベントの「方向性」や「目的意識」を統一するところからでした。時には酒を酌み交わしながら,若い連中と,三次の経済を見据えた“大構想”を語り合う中で,ひとつひとつの小さな取組を大人が本気で取り組むようになってきました。
そのひとつが,“三次唐麺焼”(みよしからめんやき)です。最初はみな「面倒くさい,時間をとられる」と漠然と反対していました。プレゼンを何度かしたものの,やってもないのに諦めモードがすごくありました。変わることも怖かったのでしょうね。

三次唐麺焼とはどんなものですか?

三次から発信する新しいものを作ろう,日本一のものをつくって三次のブランド化を進めようと,三次商工会議所の青年部の仲間と飲んで話している時に思いついたお好み焼きです。
三次市の特産品である,毛利醸造の「カープソース(辛口)」と,江草商店の「唐麺」を使って,辛いお好み焼きを作ろうというアイデアです。
「広島てっぱんグランプリ」に出るため,三次に本社がある毛利醸造さんに倉庫を借りて練習に励みました。仲間はみんな料理はほぼ素人で,プランニングやプロモーションの経験がある人間も少なかったので,本当に大変でしたが,一年目(2013年)に準優勝しました。
次第にいろんな所で「頑張ったのぉ?,お前ら」と言われはじめ,みんなの目つきがかわってきました。去年(2014年)は,優勝を果たし,みんな涙を流して抱き合い喜びました。

B級グルメや町おこしグルメの出店風景はよくあるけれど,僕らはめったに出店しません。三次唐麺焼は,本物のグルメ,A級(永久)グルメを目指していますから。三次市内のお好み焼き屋に唐麺焼きをメニューに加えてもらい,お客さんに来てもらう方が何倍も経済効果があります。始めた当初,協力してくださったお好み焼き屋は,15店舗でした。現在加盟店は,その倍になっています。

地域活動は,僧侶としてのあり方に影響を与えましたか。

僕は,お寺の敷居を下げちゃダメだと思うんです。お寺は,今までご先祖や地域の皆さんが築いてこられた権威があり神聖な場所です。これを人が少なくなってきたからといって下げてはダメ。お寺は,敷居が高くて当然で,そこに居るお坊さんの敷居を下げるべきだと思っています。
昨今お寺が疎遠になりがちなのは,お寺の中の人が浮世離れしていたり,付き合いづらかったり,地域と疎遠だったりするからではないでしょうか。
僕のイメージは,お寺は,寅さんの中の御前様,お寺は町の中にあるのだから,そういう風に触れ合う努力をすべきだと思います。

改めて,三次の魅力はなんでしょう?

いろいろ自慢はありますが,普段あまり言われないことを挙げると,水がおいしいことです。
東京から友人が訪ねてきて三次市内のビジネスホテルに宿泊していたのですが,シャワーを浴びていた時に口に入った水がとってもおいしかったと,真夜中に電話をかけてきました(笑)。県北地域の中心都市として都市機能が集積しているけどライフコストは低い。野菜などの食料も新鮮で供給が安定しています。何かあってもパニックにはならないでしょう。
広島市にも高速道路で1時間少々ですから,仕事でもプライベートでもよく行きます。尾道松江道(中国山地やまなみ街道)が開通し,高速道路のクロスポイントとなって,しまなみ海道ともつながりました。
三次に住みながら広島市内へ通勤している方々も多いですが,広島市へは仕事やショッピング,尾道や松江は観光など,どこに行くにも便利が良いいですね。広島空港にも出雲空港にも近い。大都会より暮らしやすいです。千葉出身の妻がホンネでどう思っているかはわかりませんが…(笑)。

最後に今後の課題を聞かせてください。

気質で言うと,古い街ですから,三次の人達は反骨精神があり矜持を持っています。田舎出身であることを隠さないです。都会に負けるもんかという意識がありますが,シャイでうまく自己表現できない(笑)。でも,三次は頑張ればもっと伸びると思います。
三次は内陸の都市ですが,東西南北どこへでもアクセスの良さをうまく活用すれば,新しい発想がどんどん生まれて需要を創っていくことができると思います。
問題は仕事。生活が成り立つかどうか不安で,帰りたくても帰れない人もいます。三次のポテンシャルを活かしながら,若い人のニーズに合う仕事をいかにつくっていくかが若い僕たちの課題だと思っています。意欲のある人がいれば,一緒に取り組んでいきたいですね。
今,住んでいる自分たちがいかに活き活きとしているか。これが町おこしの原点だと思っています。

梵さんの一日の時間の使い方

6:00 起床
9:00 仕事(お参りなど)・・・葬儀が急に入ることもあるし,相談にふっと来られることもあるので,ある意味で24時間常にオンにしています。
19:00 夕食など・・・家族とは,できるだけ夜ご飯を一緒に食べたいと思うのですが,実際のところはなかなかです。子どもや妻は不満だと思います。なので,遊べるときにどこかに出かけ,思い切り遊びます。
23:30 就寝

梵さんの休日の時間の使い方

6:00 起床
6:30 携帯の電話を切って,島根県浜田(日本海)に向かって出発!
7:45 浜田着!サーフィン三昧のこともありますが,行き詰ったときは,波乗りに限らず,海に浸かるというイメージです。関東にいた頃からの癖で,頭が空っぽになりアイディアや作戦を練る。カメラも持って行き,夜まで過ごします。僕の大切な時間です。
18:00 三次へ出発
19:15 自宅着
19:30 家族と夕食
23:30 就寝
梵 大英さん

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