金光味噌株式会社
伝統が、若い情熱で加速する。
菌の力×テクノロジーで
府中味噌を世界の定番へ
約400年もの歴史を持つ「府中味噌」。中国山地に囲まれた盆地である広島県府中市は、醸造に適した気候風土、良質な原料、清らかな水がそろい、江戸時代から白味噌の醸造が盛んでした。
古い記録には、奈良で開かれた博覧会で府中の白味噌が最高賞を獲得し、全国に名を馳せたとあります。府中味噌の特徴は、天然醸造による香りの高さとまろやかな味わい。また麹歩合が高いため塩分が少なく、健康志向の味噌としても注目されています。
伏見、讃岐と並び、白味噌の三大産地に数えられる府中市には現在3つの醸造元があります。その一つが、明治5年(1872年)創業の金光味噌株式会社です。
築約200年の店舗兼事務所や、製造工場に並ぶ年季の入った杉樽がその歴史を物語る一方で、若い従業員が多い同社。
金光康一社長は「従業員は全19名で、平均年齢は31.5歳。工場長は31歳です。“停滞は後退”という考えのもと、新しいことを取り入れていくうちに、組織が若返っていきました」と話します。
オーガニック味噌でいち早く海外進出
金光味噌の強みの一つが、海外展開です。日本で「オーガニック」や「有機」という言葉が定着していなかった1970年代、金光社長の父である先代の頃から、無農薬原料を使った有機味噌づくりを始めました。
その後まもなく、米国のオーガニック認証機関「OCIA」や農水省の「有機JAS認証」を制度創設と同時に取得。
「かつて、交流のあった外国人から“生まれ育った国に、菌を使った食品があるのはすごくクールなことなんだ”と言われたのを今でも覚えています」と金光社長は話します。
酵母の力を体に取り込もうという健康志向の文化がすでに根付き始めていたヨーロッパやアメリカ、オーストラリアに、金光味噌はいち早く「日本の有機味噌」として進出。現在では、出荷量の約80%が欧米、中東、アフリカといった海外向けとなっています。
「味噌で不健康な国を健康にしていく」。これが、金光味噌の掲げるビジョンです。
「欧米がかつてそうだったように、近年では中東やアフリカなど、これから先進国になる国で、ファストフードの乱立による肥満などの問題が増えています。そうした国で、日本の伝統的な健康/食品である味噌を通じて、体にやさしい食生活を広げていきたい」。
「職人の勘」をデータに。味噌づくりのIoT化
海外進出によって飛躍的な成長を遂げた金光味噌ですが、味噌づくりは従来、経験に基づく「職人の勘」がものをいう世界。増え続けるニーズに、製造力が追い付かないという課題が生じるようになりました。
そこで、家業を継ぐ前は自動車ブレーキの製造会社に勤めていた金光社長が着手したのが、味噌づくりのIoT化です。大豆の水分量や製麹時の二酸化炭素排出量、蒸煮時間、熟成度などを細かくデータ化・分析し、「味の基準」を数値化。作り手の経験年数に関わらず、高品質な味噌づくりを実現しています。
また、味噌は重量があるため、充填作業には高度な技術が求められます。同社ではこの工程を、独自開発の機械で自動化しました。
「生産現場の重労働を自動化することで、より多くの人間が管理側に回ることができる。そうすると多角的な視点でチェックできるようになり、製品の規格が安定していきました」。
一方で、自然が生み出す力を大切にする姿勢は変わりません。「味噌の味を決めるのは、築200年の蔵に棲みついているさまざまな“蔵付き酵母”です。この菌こそが、金光味噌独自の味わいを作り出してくれるんです」。
第1工場では150年近く使用している杉樽で味噌を醸しつつ、第2工場ではIoT技術を導入している同社。伝統とテクノロジーの両輪が、金光味噌の味を支えています。
さらに、社内業務もDX化を進めています。スプレッドシートを活用し、生産計画や生産管理、在庫管理をはじめ、「明日は検定試験を受けてきます」「がんばってね!」といった日常的なコミュニケーションも同じツール上で展開。こうした工夫により、生産効率は倍以上に伸びたといいます。
「若さゆえの実行力や決断力が、会社を前に動かしている。若い世代はマルチタスクをこなすのが得意な人も多く、変化に柔軟に対応できる強さがあります」。
スキルよりも人間性重視の採用
「工場長を筆頭に、どうすれば生産効率を上げられるかを考えて行動できる、合理的な性格の人が集まっています」と金光社長。
厳格な認証規格に基づいた製造現場で、最新鋭の味噌づくりに取り組む同社ですが、もっとも重視するのは「人間性」だといいます。
「どんなキャリアを積んできたかより、精神的に自立しているかどうか。東京で一人暮らしを経験した人は、その点が鍛えられていると感じます。それから、やっぱり“つくること”が好きな人が多いですね。味噌の仕込みが少ない時期より、製造で忙しい時期のほうが、皆イキイキしています」
SEから食品メーカーに転職
2021年に入社したOさんも、東京からのUターン移住者です。
福山市出身のOさんは、高校卒業後、福山の隣町・府中市の大手機械メーカーで工場勤務を経験。その後、「若いうちにいろんなものを見ておきたい」との思いから、2017年に東京へ移りました。
「東京ではSEとして3年ほど勤めていましたが、需要の多い職業だけに、だんだん“自分じゃなくてもいい”“代わりはいくらでもいるんだ”という気持ちが強くなってきて…。コロナ禍と家庭の事情もあり、地元に戻ることに決めました」。
東京に暮らしながら地元での転職準備を進めているときに出会ったのが、金光味噌でした。
「食べることも料理することも好きで、発酵食品もよく食べていました。それから、小さい頃から食品パッケージの裏に書いてある成分表示を読むのが好きだったんです(笑)。発酵とテクノロジーを掛け合わせた味噌づくりをしている金光味噌を面白そうだと思い、応募しました」。
入社して感じた印象は「どんなチャレンジにも“いいじゃん!やってみよう!”と背中を押してくれる会社」。企業として新陳代謝を重ねる中で人員の入れ替わりもありましたが、Oさんはこう振り返ります。
「自分とさほど年齢が変わらない工場長が、先陣を切ってブレることなく新しい味噌づくりに取り組んでいる姿を見て、この人についていこう、自分も頑張ろうと思えました。入社2年目のとき、海外需要に味噌の在庫が追い付かず、工場長と2人で大量の味噌を仕込んだ日々は、大変だったけれど楽しかったですね。社長も、若い僕たちに自由にやらせてくれました」。
また、Oさんは、2024年にドイツで行われたオーガニック食品の展示会出展に参加したことも印象に残っているといいます。
「海外市場を肌で感じられたのはもちろん、これまで顔の見えなかった、長く取引している海外のお客さまと直接お話しすることができ、金光味噌の製品は“特別”であり“愛されている”ことを知りました。より一層、良い商品を作っていかなければならないと感じました」と振り返ります。
外国人スタッフと支える、日本の伝統食
Oさんは、国内向けの出荷場、海外向けスパウト(パウチ)製品の生産・加工、味噌づくりの作業を経て、現在はスパウト製品の加工・充填の現場を担当。第2工場に3台ある充填機の管理・メンテナンスや、ロボット充填機のAI学習、スタッフの技術指導などを担っています。
現在、外国人従業員が半数以上を占めている金光味噌。指導にあたる中で、Oさんは言葉や文化の壁に直面してきたといいます。海外展開を進める同社では、国際有機認証機関「ECOCERT」やグルテンフリー認証など、国際的に信頼性の高い認証を取得しており、味噌づくり以外にも学ぶべきことは多岐にわたります。
「有機認証やグルテンフリー、アレルギーについて教えるのも、なかなか難しいんです。国によって感度が違いますから。だからこそ、相手を理解した上で伝わる言葉を探し、何度でも根気強く教えることを心がけています」。
事務所で雑談するOさんと若い外国人スタッフの間には、やわらかく穏やかな空気が流れていました。日頃からコミュニケーションを大切にしながら働いている様子が伝わってきます。
金光味噌に入社して良かったことを尋ねると、こう答えてくれました。
「コロナ禍や祖父ががんを患ったことで、毎日の食事の重要性をより考えるようになりました。だから、有機食品に携われていることがうれしいですね。200年以上前から蔵にいる菌が味噌をつくってくれること、自然の力と最新技術を掛け合わせたものづくり、海外から来た仲間たちと日本の伝統文化を守り、そうして生まれた製品で世界の人たちを喜ばせていること…。そのすべてが面白いと感じています。皆が仕事をしやすくなるために、ITの知識をもっと活かせたらと思っています」。
今後は、手動の充填機を自動化するプロジェクトに取り組んでいきたいと意気込みます。
仕事もプライベートも“つくること”を楽しむ
「しっかり働いて、しっかり配当を出す」をモットーとする金光味噌。
Oさんもこう話します。
「朝は7時出勤で、繁忙期には残業や土曜出勤も発生しますが、仕事ぶりや人間性を見て、きちんと評価してもらえます。入社4年目の今、給与は東京で働いていた頃より上がりました。有給も取りやすく、交通費や住宅手当、私はまだ使っていませんが、子ども手当などの福利厚生も整っています」。
プライベートも充実しているというOさん。休日は福山市を拠点にバンド活動を行ったり、音楽イベントを主催したりと精力的に過ごしています。
「音楽や映画などのサブカルチャーが好きなので、その点では東京を離れたくない気持ちもありました。田舎には文化がないとよく言われますが、帰郷してからは、自分がまちのカルチャーを見つけられていないだけだったんだと気付きました。それに、“こんなイベントがあればいいのにな”と思ったら、自分でつくってしまえばいいんですよね。府中や福山にも、自主的に活動しているアーティストやオーガナイザーはたくさんいます」。
また、趣味の料理が高じて、イベントでスパイスカレーを販売することもあるそうです。「塩の代わりに味噌を入れると、まろやかな味わいになっておいしいんですよ」と笑顔で教えてくれました。音楽、イベント、カレー…。プライベートでも、さまざまな「つくること」を満喫しているようです。
400年の歴史を持つ地場産業を受け継ぐ老舗でありながら、常に変化を恐れず、成長を遂げてきた金光味噌。伝統とテクノロジー、そして若い人材を原動力に、世界の人々の健康を支える仕事が広島の地方から生まれています。
会社情報
| 会社名 | 金光味噌株式会社 |
|---|---|
| 設立 | 昭和26年 |
| 所在地 | 広島県府中市府中町628 |
| URL | https://www.kanemitsu-miso.co.jp/ |

