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INTERVIEW

瀬戸内海の小さな島に魅せられて、看護師から大好きなパン作りの道へ。 人生は一度きり! だから、やりたいことに挑戦するだけです。

杭田 俊美さん

愛知県・東京都 → 広島県
2016年
1969年生まれ 手作りパンの店 「百島しあわせパン製作所」  ももパン店主 家族構成 夫・愛犬

“何でもある”都会暮らしから、“何にもない”島暮らしへ。充実していた看護師の仕事を辞め、次なる人生の拠点に選んだのは瀬戸内海に浮かぶ百島だった。尾道市からフェリーで約1時間、人口約500人の小さな島に魅せられて、2016年に夫婦でIターン。今は、ももパン店主として新たな一歩を踏み出している。

移住するまでの流れを教えてください。

25歳で生まれ故郷・名古屋から上京し、眼科のオペ看(手術室で働く看護師)として約20年間勤めてきました。年齢を重ねるとともに役職も付き、収入もそれなり。何不自由なく充実した日々を送っていました。しかし、手術室勤務は一瞬たりとも気が抜けない上、事務作業なども増えて。気を張りつめたまま働き続けた結果、とうとう体調を崩してしまいまして。これがきっかけで、仕事を辞めることにしたんです。その後2年間は、パン屋でアルバイトをしたり、趣味だったパン作りをしてイベントに出品したりしながら過ごしていましたが、もっと違う生活をしてみたいと思い、移住を考えるようになりました。

“移住するなら海のそばで”という漠然とした希望がありましたので、いろんな市町をネットで調べたり、移住セミナーなどに参加したりしながら探していきました。そんな頃、HIROBIROのサイトを見つけて。広島県主催の移住セミナーで、運命の百島に出会ったんです。“橋の架かっていない離島”に興味を抱き、実際に島へ行ってみると、そこには見たことのない世界が広がっていました。飲食店もない、高校もない、警察署もない。本当にないものだらけ。これが、私にとっては面白く新鮮だった。さらに、百島から望む夕日の美しさ、空気感、穏やかな時間の流れに触れ、“ここで暮らしてみたい”と。愛犬・コフィーの遊べる場所が多いのも決め手でしたね。砂浜は遊び放題、海は泳ぎ放題(笑)。自由に遊ばせることができるのは大きかったです。
夫へ移住の意志を伝えると、サーフィン好きということもあり、“海のそば”ということには賛同してくれていました。ただ、東京を拠点とした映像関係の仕事をしていますので、当初は東京近郊を想定していたと思います。何度も話し合いをする中で最終的に私の気持ちを尊重してくれ、二人で百島へ移り住むことを決めました。

なぜ百島でパン屋を?準備はどう進められたのですか?

百島へは何度か足を運びました。1度目は雰囲気を見て、2度目は島内の施設をチェック、3度目に空き家を数件見学しました。地元の方と話しているうちに、島を出て買い物に行かないと食べ物が手に入らないということを聞いて。私にできることはないかなと考えた時に「パン屋だ!」と思ったんですね。それから、島内の方に工房兼住まいにできる空き家をお借りし、2016年の7月に引っ越し。壁を塗ったり、畳みをフローリングにしたりと慣れないDIYに挑戦しながら自分たちで工房づくりを進めていきました。
移住から約1年2か月後にようやく「百島しあわせパン製作所」(ももパン)をオープン。

アートベースでのランチボックスの販売から始め、現在は、火曜日は食パンの予約販売、木曜日に通販ベーグルの発送、土日にイベント出店と、無理のない範囲で少しずつ販売の場を広げています。オープン当初は、パン作りのノウハウしかなく、経営や通販については分からないことだらけで、創業サポートセンターの方に協力していただくことも。ホームページや通販サイトの作り方、パンの価格設定など、いろいろな相談をしています。特に、パンの売値には悩みましたね。素材にこだわっていますので、原価からしてスーパーの小売価格より高くなってしまいます。価格感のギャップについて相談すると、「百島だからといって価格は下げることはないよ。厳選した素材だったら理解してくれる人は買ってくれるから」とアドバイスをいただきました。

東京と百島の両極端な環境。どうのように対応したのですか?

利便性を考えるとやはり東京は便利。電車や地下鉄の本数が多いですから自分軸で動けていましたが、今は船の時間が優先。便が少ないだけに、逆算して行動する習慣が自然とついていきましたね。あと、ネット環境は整っていますので、パンの材料や食材の購入は通販をフル活用しています。乗船代や車のガソリン代を考えると何度も買い物へ出掛けるのは不経済。ネットでまとめて購入すると送料無料もあるのでお得です(笑)。必要なものは東京の頃と変わらず購入できるし、今はそこまで不自由に感じていないです。
夫も島暮らしに合わせ仕事のスタイルを切り替えています。映像関係業務は東京をベースにしないと続けるのが難しい仕事。なるべく島でできる仕事へシフトしているようです。それでも月の半分くらいは東京へ出張しているので、福山から新幹線ののぞみで行ったり、ネットで安いエアチケットがある時は三原から飛行機を利用したりしながら、島と東京を往復しています。島から尾道と福山はすぐ。特に新幹線は乗ってしまえば便利ですから。

島の暮らしはいかがですか?

穏やかな島時間が心地良く、ゆったりとした気持ちでいられます。島の方々も温かく、気にかけてくれるのがありがたいですね。驚いたのが、外出先から自宅に帰ると玄関に野菜が置いてあること。誰が置いたのか分からないまま、数日後に「それ私よ!」と届け主が現れるんですよね(笑)。これが日常なんだなと。ほかにも、島民の方から畑をお借りしていて、昨年は玉ネギ、オクラ、インゲンなど、野菜作りにもチャレンジしました。都会暮らしで土を触るのさえ初めてでしたが、スマホ片手にネットで調べながら農業にも取り組んでいます。

また、夫は百島に来てからSUP(スタンドアップパドルボート)を始めました。もともとサーフィンが趣味でしたが、瀬戸内海は波が穏やかなので、今はもっぱらSUPばかり。隣町まで陸路を行けば遠回りになるからと、島から島へSUPで移動するんですよ。瀬戸内海をプライベートシーのようにできるなんて、こんなに贅沢なことはないですよね。

これからどんなパン屋さんにしていきたいですか?

まずは、パン屋を軌道に乗せることが目標です。もともと、パンを通じて地域貢献も考えていて、島内での販売は食パンをメインに予約制の宅配スタイルを取り入れました。小さい島ですが、港から住宅街まではお年寄りが歩くには少し遠いですし、足の不自由な方も多い。宅配の方が喜ばれますし、元ナースだった経験を活かし、パンを届けながらお年寄りの見守りができれば、この島で暮らす人の役にも立てるなと。また、食パンの種類も1種ではなく、マーブルチョコやレーズンなど、いろんな種類を作って“食べる楽しみ”も提供したい。ももパンからしあわせを届けられたらうれしいですし、そのしあわせが連鎖するパン屋でありたいですね。あと、やるからには百島の素材にはこだわっていきたい。

百島は柑橘系が豊富なので、特産品から酵母を起こしてパン作りに活かせていけたら面白いなと思い、レモンで自家製酵母を作りました。酵母はフルーツや野菜から起こせるので、次はカボス酵母にもトライします。あと、パン以外にもジャムを作っているので、季節のジャムも構想中。イチジク、ミカン、レモン、ハッサクなど種類を増やしていき、ゆくゆくは百島のお土産品にしていけたらいいなと思います。

移住者へのアドバイスを!

何よりもその場所を好きになること。移住先の地域で地元の上手くやっていきたいと思うのなら、その地域の方と交流し、自分から歩み寄ってみてください。地域の清掃の日に参加することから始めてもいいと思います。地域活動に参加しているうちに、地元の方々との親交が生まれ、土地への愛着も湧きますし、新しい発見もあるはずです。

また、移住エリアにとどまらず、近郊エリアにも積極的に出かけてみるのもいいですね。百島は尾道市ですから、尾道の町まで行けば移住者たくさんいます。そういう人達との繋がりを持った方が心の支えになりますし、刺激にもなる。百島は、今の時代にないくらい昔ながらの暮らしが残る島です。この自然豊かでユニークな島暮らしを楽しみつつも、新しいことにもしっかりと目を向けることが、移住を成功させるためのカギなのかも。もし、やりたいことがあるなら恐れず挑戦して。人生は一度きり! どうせなら楽しんだほうがいいと思いませんか。

火曜日:食パンの日

5:00 食パンミキシング
6:00 発酵
9:00 焼成
11:00 販売
13:00 宅配
15:00 クローズ
16:00 通販ベーグル仕込み
17:00 犬の散歩・夕飯準備
20:00 次の日の仕込みの続き
23:00 就寝

休日

6:00 起床
ゆっくり犬の散歩
9:40 フェリーで福山へ
10:00 福山市の問屋やスーパーで買い物
15:00 フェリーで百島へ
17:00 犬の散歩
19:00 夕食
録画しているTVを見る
23:00 就寝
杭田 俊美さん

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